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ナチュラルビジョン ー 高色再現映像システムの開発 ー


1.ナチュラルビジョンとは

現在、デジタル放送やブロードバンドでの映像配信など、デジタル映像は広く一般に利用されつつあり、さらに遠隔医療、電子商取引、電子美術館等への利用も期待されている。このような応用分野では、映像が単に鑑賞されるだけでなく診断や商取引等に利用されるので、映像情報自体が価値をもつことになる。ところが従来の映像システムでは、実物の色を忠実に再現できていない。例えば我々がデジタルカメラで人物や風景等を撮影して画面に表示すると、再現される色が実物と異なるということを経験する。
 ナチュラルビジョンは、従来の3原色(赤(R)・緑(G)・青(B))を超える新しい映像通信システムを開発し、実物が目の前にあるときに限りなく近い色・光沢・質感等を持つ映像を再現することを目的としている(図1)。RGBの3原色の代りにマルチスペクトルカメラ(図2)等を用いて光のスペクトルの情報を入力することで、撮影時と異なる照明環境の下でも実物を直接見る場合と同様に忠実な色を再現する。表示側でも4以上の原色を用いた多原色ディスプレイにより、従来のディスプレイでは表現できない鮮やかな色表示を可能にする(図3)。そしてこれらの入出力機器間で忠実な色情報を交換するため、多原色映像信号の伝送・保存技術等の研究を行っている。

(a)その場に行ったときに見える色をそのままに映像で再現する

(b)実物が目の前にあるときと同じように映像の色を再現する

図1 映像通信システムにおける忠実な色再現の考え方

(a) 16バンド回転フィルタ型マルチスペクトルカメラ

(b) 6バンドHDTVカメラ

図2 マルチスペクトルカメラの外観

図3 多原色による色再現範囲の拡大

2.研究体制と活動

本プロジェクトは、1999年に総務省の予算で通信・放送機構(4月1日から独立行政法人情報通信研究機構(NICT))の直轄研究として開始され、赤坂ナチュラルビジョンリサーチセンターにおいて2006年まで研究が進められた。直轄研究では、同機構が研究スペースや機材、人件費等を用意し、主に企業からの出向による研究員が研究を担う。プロジェクトリーダを本学の大山永昭教授が、サブリーダを千葉大学の羽石秀昭助教授と筆者の2名が務め、オリンパス、NTTデータ、NTTコミュニケーションズ、松下電器、日立製作所から常駐の研究員が参加し、また非常勤の研究員として上記企業の他、凸版印刷、大日本印刷、NHK等が加わって研究が行われた。その他、ドイツ・メキシコ等から研究員を招き、共同で研究を行った。
 現在はNICTによる委託研究「マルチスペクトル映像収集・伝送技術の研究開発」として引き続き研究が進められている。
 また、参加企業(16社)により、「ナチュラルビジョン普及促進協議会」が設立され、リサーチセンターの運営の支援、実証実験への協力、実用化に向けた取り組みなどを行っている。学生は、協議会を通じた共同研究員としてプロジェクトに参加している。大学で行った研究テーマについて、リサーチセンターの機材を用いて実験を行ったり、新たな機器の開発に反映させたりしている。
 NICTの直轄研究は、基礎・応用研究から実用化へ結びつける掛け橋と位置付けられており、新技術のシステム化、各種応用分野への適用、標準化への貢献などの活動を期待されている。実際、多原色ディスプレイによる高精細で高彩度な映像表示システム、マルチスペクトル動画ハイビジョンカメラ等は世界で始めて具現化されたものである。また、研究開発と同時に、普及に向けた活動として、産官学の関係者に対する研究内容のデモンストレーションを頻繁に行っている。百聞は一見に如かず、色再現性は実際に見なければ理解できない。研究開始から2003年3月までにのべ550人余りの見学者があった。

3.研究内容とこれまでの成果

1999年のプロジェクト開始から2003年3月まで静止画を対象とした研究を行っていたが、2002年に動画に関する研究項目を追加し、2006年3月まで「動画ナチュラルビジョン」の研究開発を行った。現在は、より実用的なシステムの開発、実証実験、普及に向けた活動を継続している。
 静止画の研究開発では、16バンドのマルチスペクトルカメラで撮影した画像をもとに、従来の3原色表示装置、4原色フラットパネル液晶ディスプレイ、6原色プロジェクタ[図4、5]等に忠実な色再現を行う技術を確立してきた。また、忠実な色情報を交換するための画像データフォーマットを開発し、国際標準化機関への提案を行っている。実証実験としては、皮膚科や病理診断等の医療応用、カタログ印刷のためのスタジオ撮影、美術品・文化遺産などのデジタルアーカイブ(アステカ文明時代の絵文字「Codice」の収集実験)などを通じて有効性を実証してきた。動画ナチュラルビジョンでは、6バンドHDTVカメラ[図6]を用いて高い色再現性を持つ動画像の収録、編集、再現を行うシステムを開発している。さらに、多原色ディスプレイによる、多彩な色を使えるコンピュータグラフィックスを実現している。
 人間の視覚は、基本的には3種類の波長帯域に感度を持つセンサーで色を知覚しているが、その感度特性には個人差がある。これまでに、マルチスペクトル・多原色の技術に基づく映像システムによって、個人差があっても、実物と表示画像の色を一致させることができることを実証している。
 今後、リアルタイム伝送の技術開発などを進め、遠隔医療における動画像伝送へ適用することなどを予定している。

(a)4面マルチリア投影型6原色ディスプレイ

(b) 6原色DLPディスプレイ

図4 試作された多原色ディスプレイ

図5 CIE a*-b* 平面(等明度面)、L*-C*平面(等色相面)上での6原色DLPディスプレイの色再現域(青線),比較として3原色DLPディスプレイ(赤線)、自然反射物体の色域 (Pointer+SOCSGamut)(緑線)を示す。6原色表示により自然物体の色域をほぼカバーしている。

図6  6バンドHDTV動画カメラの構成

4.主要発表文献

著書

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  • “『脱3原色』に走り出すデジタルカメラとプリンター,” 日経エレクトロニクス,pp.69-78, Oct., 2003
  • プリンタが6色インクならばディスプレイも6原色ディスプレイへ – 280兆色の世界/赤坂ナチュラルビジョンリサーチセンター, マイコミジャーナル,SIGGRAPH 2004 – EMERGING TECHNOLOGIES展示セクション(1),2004/08/14

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Last update 2008/03/07
2004.12.20 Masahiro Yamaguchi