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乳がん患者のHER2発現を判定するためのCISHによる自動定量化


ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)は、大腸癌、胃癌、乳癌など多くの癌の予後予測バイオマーカーである[1]。乳がん患者の約20%は、HER2遺伝子の増幅やそれに続くHER2タンパク質の過剰発現により、HER2陽性となる。
HER2が陽性の患者には、トラスツズマブなどの標的治療が有効であるが、HER2が陰性の患者にこの治療法を行うと、心毒性といった副作用を引き起こす可能性がある。このため、浸潤性乳がん(IBC)の診断において、HER2遺伝子増幅の有無の判定は、標的治療に適した患者を特定するために非常に重要である。
蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)と発色in situハイブリダイゼーション(CISH)は、HER2遺伝子増幅を評価するための検査方法としてFDAに承認されている。現在、主にFISHスライドから手作業で無数のシグナルをカウントすることで評価が行われている。これに対してCISHは、FISHよりも安価で、検体の保存が容易で、準備に時間がかからず、組織形態も同時に評価できるといった特徴を持つ。しかし、既存のCISH自動定量法では、個別の核の検出や信頼性の高いシグナルの検出ができなかった。本研究では、IBCにおけるHER2発現状態を判定するためのCISH定量法を提案した [Fig.1]。

本手法では、カラーアンミキシングと機械学習技術を利用して、重なりや欠損のない個別の核を限定的に選択する。次に、RGB強度を用いてHER2およびCEP17のシグナルを検出し、それぞれの色素量に基づいてHER2およびCEP17のシグナルをスコア化する。そして、HER2-CEP17の差が最も大きい20個以上の核について、HER2対CEP17比と平均HER2値を算出し、ASCO/CAP 2018ガイドラインに沿ったHER2ステータスを判定する。

22人のIBC症例を対象として、提案した方法を病理医が手動で行ったFISHおよびCISHのカウントと比較した。その結果、両者の相関係数は0.98以上であった。本手法は、2種類のWSIスキャナーでその動作を確認している。このような技術により、HER2定量にかかる労力と時間を削減することが可能になる。

Fig 1 提案するCISH定量化手法の流れ

Table 1 HER2定量化手法の比較

Fig. 2 Bland–Altman プロットによる提案手法の評価

本研究は米国メモリアルスローンケタリングがんセンター(MSKCC)と東京工業大学との共同研究として実施された。

  1. Hossain M. Shakhawat, Matthew G. Hanna, Naohiro Uraoka, Tomoya Nakamura, Marcia Edelweiss, Edi Brogi, Meera R. Hameed, Masahiro Yamaguchi, Dara S. Ross, and Yukako Yagi. “Automatic quantification of HER2 gene amplification in invasive breast cancer from chromogenic in situ hybridization whole slide images,” Journal of Medical Imaging 6(4), 047501 (21 November 2019). https://doi.org/10.1117/1.JMI.6.4.047501
  2. Hossain M. Shakhawat, Tomoya Nakamura, Matthew Hanna, Noahiro Uraoka, Dara S. Ross, Meera R. Hameed, Masahiro Yamaguchi, Yukako Yagi. Assessment of HER2 amplification in invasive breast cancer from CISH using digital and computational pathology, Pathology Informatics Summit 2019, Pittsburgh, USA, May. 2019.