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病理画像解析による定量的病理診断支援技術


デジタル病理学の第一のインパクトはディスプレイを用いた診断に基づくワークフローのデジタル化であるが、もう一方の柱はコンピュータ画像解析技術の応用といえる。コンピュータを用いた形態解析は古くから研究レベルでは行われているが、画像撮影や処理、パラメータの設定などを手作業で行わざるを得ないため、定常的な診断プロセスでの利用は困難であった。また手作業を介するため、作業者の判断が結果に影響を与える可能性は否めない。これに対して、近年、WSIスキャナーによってデジタル化された画像を自動的に解析するシステムが実用レベルに至りつつある。

 画像解析技術が病理学に貢献するためには、予後予測や治療法選択などといった臨床に役立つ情報をシステムが提供できなければならない。従来、人間が視覚的に判断していた診断基準の各項目に対して、画像解析システムが定量的な値を提供すれば、より客観的で安定したスコアにより診断を行えるようになる。また、人間には形態的特徴として解釈が難しいようなスコアであっても、他の臨床病理学的知見との関連が明らかになれば、定量的な数値として有用なものとなる。そこで、コンピュータ画像解析により定量的な特徴を自動的に数値として表現し、診断に活用する「定量的病理診断」の確立に向けた研究を進めている。その例として、肝細胞がんのHE染色標本を自動解析するシステムの開発を行った。WSI画像から特徴量を自動的に算出し、数値及びヒートマップとして提示する。さらに数値として得られた特徴量を予後や臨床経過との関係の解析などに用いることが可能である。

また本システムでは算出された各種特徴量を入力として機械学習を行い、がん(肝細胞癌、HCC)と非がんの識別を行う機能も実装している。機械学習としてSVM(Support Vector Machine)を用い、手術標本:147 slides、1076 ROIs(533非がん、543 HCC)、生検標本:111 slides、1054 ROIs(504 非がん、550 HCC)により評価した結果、下表のように約90%の識別精度が得られている。

定量的病理診断に向けた画像解析技術は、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託研究として、慶應義塾大学、日本電気株式会社、埼玉医科大学と東京工業大学により実施されたものです。

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