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H&E染色画像からのU-Netによる有糸分裂像の自動検出


有糸分裂は細胞分裂の一段階で、新しい細胞を作るための増殖過程であるため、有糸分裂の数は細胞の増殖活性を表している。このため、癌の病理診断において有糸分裂像の数は予後判定因子として重要である。有糸分裂の検査とカウントは病理医が手作業で行っており、専門的な知識が必要なだけでなく、膨大な手間と時間がかかる。そこで、Hematoxylin & Eosin (H&E) 染色病理標本の画像から有糸分裂像を自動的に検出することを目的として、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)やYOLOなどの深層学習を用いた検出手法の研究が盛んに行われている。しかし、有糸分裂像の形態は多様であり、現在までに報告された手法による検出性能はまだ限定的である。また、WSIの解像度は非常に高いため、効率的な手法が望まれている。
本研究では、これに対して以下の3つの提案を行っている。

  1. 機械学習に用いるデータセットの量は、現状、有糸分裂像の多様性を機械学習モデルに反映するのに十分とは言えない。データセット作成においては有糸分裂像のアノテーションを行う必要があるが、手作業によるアノテーションには膨大な手間がかかるだけでなくミスも起こりやすい。本研究では、同一組織の (H&E) とPhosphohistone H3 (pHH3) の染色画像のペアを利用することで、アノテーションの自動化を行う。pHH3標本は、細胞の有糸分裂を識別する標的抗原(pHH3)の存在を検出できる。提案手法では、H&EとpHH3染色の全スライド画像(WSI)をタイリングベースで位置合わせし、高速かつ正確なラベリングのための新たなフィルタリング方法を適用する。これにより、H&EとpHH3の染色画像ペアから直接データセットを生成することに成功し、このデータセットがモデル学習のためのデータ拡張として利用可能であることを実験的に実証している。
  2. 深層学習により有糸分裂像を検出する新たな手法として、2 次元ガウス分布に基づくラベルを用いて学習させた U-Net ベースの有糸分裂検出モデル(GaussUNet)を提案する。ガウス分布は有糸分裂図の各重心ラベルに割り当てられ、中心に近い画素はより多く学習され、中心から遠い画素はより少なく学習されるようにする。これにより、比較的簡単な処理で高精度な検出が可能になる。
  3. 提案する有糸分裂検出モデルでは、予測出力は有糸分裂チャンネル、背景チャンネル、擬似有糸分裂(MLA)チャンネルの3チャンネルから構成される。MLAチャンネルは、有糸分裂と似ていて混同しやすいが異なるオブジェクトで、モデルを別途学習させるために用いられる。従来、MLA のアノテーションは病理医が行っていたが、本論文では,学習したモデルから得られた偽陽性(FP)をMLAとして学習データに追加することで、モデルの性能の向上を達成した。

図1 半自動のデータセット生成アルゴリズムの概要

図2 GaussUNetに基づく有糸分裂像検出手法の流れ

図3 擬似有糸分裂像を用いた再学習

発表文献

[1] Jiaming Li, Toshiyuki Adachi, Saori Takeyama, Masahiro Yamaguchi, Yukako Yagi, “U-Net based mitosis detection from H&E-stained images with the semi-automatic annotation using pHH3 IHC-stained images,” Proc. SPIE 12032, Medical Imaging 2022: Image Processing, 120322J (4 April 2022); https://doi.org/10.1117/12.2612815
https://www.oid.ict.e.titech.ac.jp/publications/U-Net_based_mitosis_detection_from_HE-stained_images_with-letter.pdf

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本研究は米国メモリアルスローンケタリングがんセンター(MSKCC)と東京工業大学との共同研究として実施されました。
この成果の一部は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業(JPNP20006)の結果得られたものです。